30歳になったら静岡県!

Iターン

中楯健介さん

なかだて けんすけ

伊東市

千葉県流山市出身。広告制作会社やWeb制作会社を経て、2013年にホテルや温泉旅館などを展開するリゾート運営会社に入社。転職とともに静岡県伊東市にIターンし、現在は宿で調理担当として働いている。妻の敦子(のぶこ)さんと9歳の長女、5歳の次女、2歳の長男、0歳9カ月の三女と6人暮らし。

伊東市へのIターンを決めた理由
自然豊かな場所で子育てしたい

窓から海を見下ろせる長閑な場所にある一軒家には、いつも子どもたちの元気な笑い声が響き渡る。

中楯さん一家が伊東市へIターンしたのは2013年。それまでは健介さんの生まれ故郷である千葉県流山市に住み、健介さんは東京の会社に勤務。妻の敦子さんは、県内の病院で看護師として働いていた。ちょうどその頃、流山市では開発・都市化が進み、街並みが大きく変わる過程にあった。そんな中で湧き上がってきたのが、「自然豊かな場所で子育てをしたい」という思いだった。

「流山市には昔は田んぼや畑があり、僕自身はそんな自然に囲まれた中で子ども時代を過ごしました。でも今は開発され、町の景色はがらっと変わりました。子どもたちにも、僕と同じように自然豊かな場所で育ってもらいたい。Iターンを考えるきっかけとして、子どもの存在が一番大きかったですね」。妻の敦子さんも同じ思いを抱えていたという。

2010年頃から、まずは千葉県内で物件と仕事を探し始めた。ただ、なかなかうまく進まない。「最大のネックは仕事でした」と健介さんは当時を振り返る。そうこうしているうちに子どもたちはどんどん成長していく。決断に悩み、踏み切れずにいたときだった。仕事内容、場所とも条件に合うような興味深い求人情報を発見。そこから、事態は一気に動き出した。

転職の条件と仕事の見つけ方
未経験で旅館・サービス業に挑戦

健介さんが目にしたのは、ホテルや温泉旅館などを展開するリゾート運営会社の求人だった。考えてみれば、地方には旅館などのリゾート施設が数多くある。Iターンとの相性がいい。しかも、健介さんはもともと旅館・サービス業に関心があった。晴れて転職を決め、敦子さんの意見も踏まえ「千葉の実家にも日帰りできる場所」を希望したところ、伊東市の旅館への配属が決まった。旅館業は初めての経験だ。当時35歳。未経験の仕事への不安はなかったのだろうか。

「不安はありましたよ。ただ、逆に未経験でもチャレンジできるラストチャンスとも考えました。もともと旅館業に興味もありましたし、生活が変わり、新しいことにチャレンジできるワクワク感の方が大きかったですね」

敦子さんも「仕事が見つかり、海も山もある」と大賛成。こうして、自然豊かな場所での家族生活が本格的にスタートした。

Iターンしてよかったこと
つつましく、心豊かな生活へ

Iターンして、すでに5年以上が経過した。東京で働いていたころは毎晩のように同僚たちと酒を飲み交わしていたという健介さん。ゆっくり家で過ごすのは休日くらいで、貴重な休みも疲れて寝ている時間が少なくなかった。Iターン後も、勤務時間は東京時代とほとんど変わらず忙しいものの、外食することがなくなった分、家族と一緒に過ごす時間が増えたという。
「Iターンしたことで仕事自体にゆとりが生まれると思われがちですが、決してそうではありません。むしろ、宿泊客の対応や準備は時間との闘いでもあるので、かなりハードです。でも、現在の伊東市での生活には、オフ(休日)に気持ちを切り替える要素がたくさんあるんです」

健介さんがオフに楽しんでいるのが、畑作業や釣りだ。家庭菜園に加え、5月からは新たに近くの畑を地元の知人から借り、ピーマンや里芋、枝豆、とうもろこしなどを育てている。釣りも、35歳を過ぎて手にした新たな趣味だ。ときには子どもたちを連れて海に出かけ、釣った魚を干物にして食べたりしている。さらに、仕事で調理師免許を取得した腕を活かし、自作のピザ釜を使って子どもたちと一緒にピザ作りを楽しむこともあるそう。
「以前は自宅と職場を往復するだけのような日々でしたが、今は畑、釣り、料理など”+α(アルファ)”の要素が増え、家族と一緒に過ごす時間が大幅に増えました。朝起きて『仕事に行きたくない』なんて思うこともなくなりましたね。自然と触れ合い、心が穏やかになったんでしょう。ストレスが随分減りましたよ」

そんな健介さんの姿を近くで見ている敦子さんも、「以前は仕事ばっかりで、休日もよく寝ている人でした。子どもたちとよく遊んでくれるようになったので、子どもから見ても昔の”寝ているパパ”から”アクティブなパパ”に印象が変わっていると思いますよ」と笑みを浮かべる。

敦子さんは子育てに専念しているため、共働きだった頃と比べると世帯収入は大きく減った。健介さんは「生活レベルを下げることに葛藤した時期もあった」というが、外食を減らすなど工夫し、今ではすっかり慣れたという。2人がよく口にしていた言葉がある。「つつましく、でも心は豊かに」。中楯さん一家は今、自分たちらしい「豊かさ」を実践している。

人間関係やコミュニティの構築
幼稚園や学校でつながるママ友コミュニティ

Iターン後の暮らしを充実させるために、地域住民との関係をどう作り上げるかは大切なテーマの1つだ。中楯さん一家の場合は、子どもの存在がカギになっているという。妻の敦子さんに尋ねてみると…。
「私は、ママ友からいろんなことを教えてもらいました。長女が幼稚園に通っていたときに知り合ったママ友に誘われ、地元のフラダンスのサークルに入ったり、一緒に近場の山に登ったり…。伊東市ではフリーマーケットなどのイベントもたくさん開催されているので、よく参加していますよ。子育ての相談ができるのもありがたいですね」

頼もしく見える敦子さんだが、実はIターン直後は自宅で目にするムカデやクモなどの「虫が怖かった」というエピソードも明かしてくれた。それが今では、虫を見かけても動じないそうだ。どんどん馴染んでいく妻の変化に、健介さんは「人付き合いが苦手だと思っていたのに、こんなにアクティブになるとは想像していなかった」と驚いた様子だ。

子どもたちも友人の輪にすっかり溶け込んでいるようで、里山の暮らしや自然環境を学んだりする自然学校に通い、田植えを楽しむなどしている。自然の中で、伸び伸びと過ごしてほしい。健介さんと敦子さんの思いが、実現しているようだ。

Iターンに悩んでいる人へのアドバイス
仮にうまくいかなくても、まだ戻れる

幼い子どもを抱えながら未経験の仕事に挑戦し、少しずつ道を切り拓いてきた健介さん。移住を考えている人に向けて伝えたいのは、“踏み出す勇気”をもつことと、“素直になる”ことだという。
「まだIターンに踏み出せずにいる頃、ある移住者から体験談を聞く機会がありました。『親が考え抜いて決めたことを、子どもは受け入れるものだよ』と言われたんです。子どもの転校のことなど先立つ不安を考えすぎると、なかなか前へ踏み出せなくなります。でもそれ以来、自分自身がどんな暮らしをしたいのか、素直に向き合えるようになりました。自分の思いに素直に従うのが、やはり一番だと思います。とくにまだ若い20〜30代であれば、仮にうまくいかなくてもやり直せます。夢を持って、一歩を踏み出してほしいですね」

中楯ファミリーの自宅では、今日もきっと家族が賑やかに笑い合う光景が広がっていることだろう。半年前には三女が生まれ、また新たな家族が加わった。子どもたちはこれから、どう育っていくのだろうか。健介さんと敦子さんは、誰よりもその成長を楽しみにしている。